私の知人が、
「持病の痛風で足がすごく痛かったが、ニッキを飲んだら痛みが消えた。」
「痛風が治った!ニッキは凄いね!痛風に良く効くよ。」
とうれしそうに盛んに周りに喧伝していた。

 ちなみに知人は、80歳を少し越えた方で、元軍人さんで若いときから剣道をしており、現在も剣道や居合道の指導者で、食欲も旺盛で、酒も好きで、でっぷり太った体型で、脊柱管狭窄症で歩行が少し不自由で・・・。

 痛風は高尿酸血症(血液中の尿酸値が高い)が長期間続いて、関節内に尿酸結晶(
鋭い棘状の、見るからに痛そうな結晶)が析出することによって起こる関節炎のことだ。
昔から相撲取りやプロレスラーなどに多い病気だったが、最近は食の欧米化とともに急増してきている。
さらに、「でぶや」とか「ギャル曽根」とか暴飲暴食を売り物にしたタレントや「大食い競争」的番組が人気の暴飲暴食の時代なので、ますます心配になる。

 痛風発作は激烈な痛みで有名だが、第一中足趾節関節(足の親指の付け根の関節)などの下肢関節(心臓から遠くて体温が低いため)に多発し、疼痛、腫脹、発赤(赤く腫れて、痛む)が強く歩行困難になる。
急性発作は1週間ほどで軽快し、次の発作まで無症状だが、血漿尿酸値(血液の中の尿酸の量)をコントロールしないと発作を頻発するようになり、慢性関節炎になるほか痛風腎とよばれる腎合併症(尿蛋白、腎結石、尿毒症、脳血管障害、心機能障害)を併発することがある。

 痛みの抑制とともに高尿酸血症の治療が必要であるが、過食、高プリン体、高脂肪、高蛋白食嗜好、常習飲酒、運動不足、肥満、高血圧、糖・脂質代謝異常などが関係するため、生活習慣の改善が必要だ。

 ところで桂皮(シナニッケイの樹皮から作られた生薬)とシナモン(シナモンの樹皮から作られた香辛料)は厳密には異なるものであるが、ともにクスノキ科ニッケイ属の植物から作られ、いわば兄弟で・・・。

 シナモンはクスノキ科の常緑樹の名前であり、その樹皮を乾燥させて作られた香辛料の名前でもある。シナモンは世界最古のスパイス(香辛料)の一つであり、独特な甘みと香り、かすかな辛味があり、カプチーノ、アップルパイ、シナモンティー、シナモントーストなどの飲料や洋菓子などに使われている。
近種のシナニッケイ(シナ肉桂、ニッキ;cassia)の樹皮からも作られるが若干成分がことなり、これは「カシア」と呼ばれている。

 さて、このシナニッケイの樹皮から作られ、昔から生薬として使われているのが「桂皮(ケイヒ)」であり、「日本薬局方」にも収録されている(つまり食品ではなく認可された薬として扱われている)。
桂皮は体を温める、発汗を促進する、胃を丈夫にする、排尿を促進するなどの作用があり、多くの漢方薬に配合されている。中国では後漢時代(A.D.25~220年)に書かれた薬学書「神農本草経」に初めて記載され、日本には8世紀前半に伝来し、正倉院の御物にもあるらしい。

 さて、知人の件であるが香辛料として市販されているシナモンやニッキを食したものと思うが、先の効能をみれば、とりあえずの痛みの緩和には有効なことが分かる。つまり血流を改善し、体温を上げることで尿酸の結晶化を防ぎ、発痛物質を排除し、炎症の修復を促進し、かつ発汗・排尿の促進効果に水分の摂取を加えれば、血中の尿酸値を下げることができるからである。
ただし、痛風発作はおとなしくしていれば通常1週間ほどで治まることを考えれば、摂取と自然治癒のタイミングが旨く合ったということも否定できないが・・・。

 いずれにしても、これで痛みが緩和されたからと言って「治った」と思うのは大間違いであり、根本的に生活習慣を変えない限り「高尿酸血症」の状態は変っていないので、発作を再発する危険性は高い。

 また、薬効があるということは必ず副作用もあると言うことであり、香辛料として少量を摂っているかぎりは問題がないが、食品として販売されているものをむやみに痛風治療のために摂取するということは問題であるので、止めた方が良い。
シナモンカプセルやシナモンサプリメントの副作用が海外で問題化しているようであるから注意が必要だ。

 痛風に対する鍼灸の治療も、急性期は局所治療による疼痛の緩和だが、慢性期には5臓の機能を整える、排尿を促す、血行を良くして再発を防止することに主眼をおいた施術となる。合わせて、生活習慣の改善に対する強力な指導、サポートが重要になってくるのである。
 
<鍼灸マッサージサロン・セラピット>
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